Cembalo, Clavicordo & Fortepiano
 J.S.バッハゴールドベルグ変奏曲/渡邊順生
 解説


 □成立事情/バッハ自身の手による改訂版
 □変奏の手法と変奏曲の種類
 □全体の構成
 ■各変奏曲の特徴 前編
 □各変奏曲の特徴 後編
 □作品の内容的特性
 □ゴールドベルグ 表

各変奏曲の特徴

□前半=第1〜15変奏

第1変奏
フランス組曲第5番のイタリア式クーラント(コレンテ)を思わせる。大胆な10度の跳躍を持つバスが特徴的。対話法、両手の交叉などによってBグループの性格を兼ね備えている。

第2変奏
一転して単純なバスの上で模倣の技法を聞かせることによって、次に来るカノンを抵抗なく導入する役割を果たしている。

第3変奏
初めてのカノン。ここでバッハは、まず最初の2小節で、単純で軽快なバスの和声的跳躍の上で2つの声部の模倣関係がはっきり聞き取れるように工夫しているが、3小節目からは、一転、バスがその存在を誇示するかのような活発な動きを見せる。カノンというと、聴き手も弾き手も、もっぱらその関心を模倣する2声部に注ぎやすいが、この作品のカノン・グループが技法的にも内容的にも素晴らしいのは、バスにこそその秘訣があるのである。

第4変奏
最も単純な形で示されるバス主題の上で、上声部がも法的な動きを見せるリズミックな変奏。

第5変奏
純粋なBグループの最初の変奏。この変奏は、明らかに第1変奏の続編であり、Bグループの中でも最も派手さの少ない変奏であるが、これまでの変奏が確固たるバスに支えられてきただけに、いかにも新鮮に響く。

第6変奏
2度のカノン。活発なバスの動きに乗って、2つの模倣声部が各小節の1拍目ごとに不協和音を響かせながら流麗に下降する。

第7変奏
なめらかな旋律とランス式ジーグの飛び跳ねるようなリズムが特徴的。茶目っ気たっぷりの装飾的な32分音符の音階的な動きが耳を惹く。

第8変奏
Bグループの2つめの変奏。ユーモラスな分散和音の動きで始まるが、途中に現れるうねるような両手の交叉が印象的だ。

第9変奏
和音の響きの美しさをたっぷりと聴かせる穏やかな3度のカノンで、模倣する2声部の動きが聞き取りやすい。

第10変奏
一転して賑やかでリズミックな小フーガ(フゲッタ)。最初の4小節のバスの旋律線を主題にとり、主題の入りは、前半が、バス、テノール、ソプラノ、アルト、後半は、ソプラノ、アルト、バス、テノールの順である。

第11変奏
流麗な下降音階と上り下りする和音進行とが交替に現れる。この変奏は、Bグループの変奏の中では、唯1曲、4分の3拍子ではなく16分の12拍子で書かれている。16分の12拍子は、16分音符3つを1纏まりとするので4拍子に聞こえる。このグループは、通常16分音符4つを1纏まりとする4分の3拍子で書かれているので、ここでは拍単位が16分音符1つ分短くなったためにテンポが速まった印象を与える。これは、次に来る音楽的緊張感の極めて高い第12変奏と、Bグループの次の変奏である華々しい第14変奏を準備するためであろう。

第12変奏
最初の反行カノン。同音を連打する単純なバスに支えられたスケールの大きな曲。

第13変奏
おおらか且つ流麗な初めての緩徐楽章。ヴィヴァルディをはじめとするイタリアのヴァイオリン協奏曲などの緩徐楽章で、通奏低音の伴奏の上で、独奏楽器が豊かに装飾された旋律を奏でるスタイルによっている。バッハも、2曲のヴァイオリン協奏曲や幾つかのチェンバロ協奏曲の第2楽章を、こうした手法で書いている。

第14変奏
うってかわって、華やかなヴィルトゥオジティが前面に押し出された、全曲中でも屈指の難曲の1つ。ここでは連続した32分音符のめまぐるしい動きが初めて登場する。

第15変奏
5度の反行カノン。ト短調で書かれた初めての変奏であり、テンポもたっぷりとしたアンダンテで、悲痛な情感を湛えている。
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