Cembalo, Clavicordo & Fortepiano
 J.S.バッハ イタリア協奏曲
 解説


 □ルッカース・グラン・ラヴァルマン
 □フランソワ・エティエンヌ・ブランシェによる《猿のチェンバロ》
 ■ニコラ・ルフェーヴルのチェンバロ
 □《イタリア協奏曲》と《フランス風序曲》
 □バッハ父子の《2台のチェンバロのための協奏曲》
 □A Note about the Instruments
 □曲目一覧

ニコラ・ルフェーヴルのチェンバロ

 ルフェーヴルは、ノルマンディー地方の中心地ルーアンに本拠を置いて活躍したオルガン製作者であるが、1755年に製作した二段鍵盤のチェンバロ(アムステルダム、グスタフ・レオンハルト所蔵)【写真】では、響板とブリッジを工夫することによって、中音域の響きの豊かさと厚みを抑え、テクスチュアの厚いポリフォニックな作品にも対応できるような鮮明さを追求している。このチェンバロは、15年余り前にドイツで発見され、マルティン・スコヴロネックによって修復された。レオンハルトは、この楽器を用いて、バッハの《イギリス組曲(全曲)》と《無伴奏ヴァイオリン・ソナタ》及び《無伴奏チェロ組曲》の非常に優れたディスクを録音したが、その後は、フランス音楽の録音に限定して使用しているようだ。
 スコヴロネックは、現代の製作者としては、ほとんど伝説的と言ってもよいほどの名声を獲得した。1926年の生まれなので、もう疾うに70歳を超えているが、いまだに現役で、チェンバロやフォルテピアノを作り続けている。彼はベルリンの楽器博物館のチェンバロを研究し、1950年代から歴史的チェンバロの製作を始めた。レオンハルトのために1962年に製作したチェンバロが、レオンハルトの名声が高まるにつれて、レコード等を通じて広く知られるようになり、ピーク時には、彼のウェイティング・リストは30年に達していたといわれる。彼の製作姿勢は極めて芸術家的で、素材である木の特性を観察しながら、インスピレーションが湧くとその場で楽器のデザインを変更してしまうような、いわば即興的な作り方をする。彼は決してモデルとしたオリジナルの正確なレプリカを作らないが、それは、楽器は生き物であり、生き物はコピーできない、という彼の信条に基づくものだ。彼の楽器には彼自身のパーソナリティが色濃く顕れているが、それは、オリジナルの楽器についての豊富な知識と経験に支えられたものである。そうした意味で、彼の楽器とモデルとなったオリジナルのチェンバロの関係は、先に述べた、優れた演奏家と音楽作品の関係によく似ている。

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