横浜みなとみらいホール・小ホール レクチャーコンサートシリーズ
「ピアノの歴史」(全8回)

第4回:ベートーヴェンとシュトライヒャー
日時
2007年3月24日(土)午後6時〜9時
この回は、演奏のための第3ステージが特別に設けられているため、他の回よりも終演時刻が1時間ほど遅くなりますので、ご注意下さい。
講師
渡辺 裕(東京大学教授)
演奏
渡邊順生(フォルテピアノ)、藤村俊介(チェロ)
使用楽器
フェルディナント・ホフマン作(ウィーン、c1795)のフォルテピアノ
音域:5オクターヴ半/68鍵FF-c4、高音部三重弦
ストップ:膝レバー2(ダンパー、モデラート)
ナネッテ・シュトライヒャー作(ウィーン、1818)のフォルテピアノ
音域:6オクターヴ/73鍵FF-f4、最低音部のみ二重弦
ストップ:ペダル4(ダンパー、モデラート、ファゴット、ウナコルダ)
□内容
 ベートーヴェンの時代はピアノが最も急激な変化を遂げた時代であった。ベートーヴェン自身がその生涯に経験したピアノは、大別しただけで6〜7種類に上る。今回は、その中で、彼のピアノに対する感覚が形成された、いわば彼におけるピアノの原点ともいうべき18世紀タイプのウィーンのピアノと、彼が最も充実感を味わった1810年代のウィーンのピアノの2台を用いることによって、彼のピアノに対する様々な取り組みの軌跡を辿る。
 第1のタイプにおいて最も重要なのは、彼の弱音への傾斜、弱音への嗜好が如何に楽器の特性と結びついていたか、また、その方向が、アクセントやクレッシェンドによるドラマティックな表現とどのようにバランスを保っていたか、という点である。
 第2のタイプとして当日使用するのは、アウクスブルクのヨハン・アンドレアス・シュタインの娘でウィーンに工房を開いたナネッテ・シュトライヒャーが1818年に製作したピアノである。ベートーヴェンとシュトライヒャーの関係は、作曲家と楽器作者の関係として、音楽史上他に例を見ないほど緊密なものであった。両者は同じ音の理想に向かって進んだと言って良い。
 楽器作者ナネッテ・シュトライヒャーの、あるいはシュトライヒャー夫妻の楽器製作の姿勢は近代的芸術家の創作姿勢そのものである。幼少の頃からピアノを達者に弾き、詩人でピアニストの夫と結婚したナネッテは、モーツァルトとも旧知の仲であり、著名な音楽家やパトロンの貴族達と広汎な交友関係をもち、理想とする音楽のイメージに沿った楽器を製作した。およそ古今の楽器作者の中で、音楽の理想を高々と掲げた者は、他に例がないのではなかろうか。それは当初、ベートーヴェンの抱くそれとは大いに異なっており、ベートーヴェンもそれを隠していない。
 1800年代の初め頃まで、ベートーヴェンが最も高く評価していたピアノ製作家はアントン・ヴァルターであった。しかし、誇り高く、気難しいヴァルターの職人気質は、ベートーヴェンの芸術家気質とは水と油であった。一方、ベートーヴェンとシュトライヒャー夫妻は、辛抱強い交友の蓄積によって、次第に両者の溝を埋めて行く。そして1810年代になると、ベートーヴェンは長年待ち望んだ理想のピアノを、彼女の楽器の中に見出すことになるのである。
 この回では、フォルテピアノとチェロのデュオによる第3ステージを設け、それぞれのピアノとチェロの組み合わせで、ベートーヴェンの書法の変化を追う。
□演奏曲目
ピアノ・ソナタ第8番ハ短調《悲愴》Op.13より
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調《月光》Op.27-2より
ピアノ・ソナタ第12番変イ長調《葬送行進曲付き》Op.26より
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調《テンペスト》Op.31-2より
ピアノ・ソナタ第30番ホ長調Op.109より

第3ステージ(演奏のための特別ステージ):
チェロとピアノのためのソナタ第2番ト短調Op.5-2
チェロとピアノのためのソナタ第4番ハ長調Op.102-1または第5番ニ長調Op.102-2



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